人工股関節置換術

股関節の働き 手術による改善 股関節置換術の手術 手術後 退院後の注意 メモ

股関節の働き

股関節は身体の中の最も 大きな関節で、体重を支えています。健康な股関節ではねじったり、大きく動かしてもはずれたりせず、安定しているので、痛みなく歩いたり、しゃがんだり振 り向いたりできるのです。しかし、股関節に問題が生じると、動くと痛むようになり、ひどい場合にはただ立っているだけで痛むようにもなります。

健康な股関節

股関節は太腿の骨(大腿骨)の上端、丸くなっている骨頭が骨盤のくぼみ(寛骨臼)にはまり込むようになって関節を形作っています。関節の表面はなめらかな軟骨におおわれており、大きな筋肉によって自在に動かすことができます。

  • 関節軟骨は、関節の表面(骨の端)をおおっているなめらかな層です。健康な軟骨は股関節にかかる体重を吸収し、なめらかにすべって動くようにしています。
  • 筋肉は股関節や脚を動かしています。特に中殿筋は立ったり、歩いたりする際に重要です。

人工股関節とその固定方法

人工股関節は特殊な金属、プラスチック(ポリエチレン)、セラミックなどで作られています(写真下例)。
大腿骨側(ステム)と骨頭、寛骨臼側(カップ)の部品が組み合わさって人工関節を構成します。
大きさや機種など、患者さんに適したものを選んで使用します。

人工股関節の固定方法として、セメントを用いる方法と、用いない方法があります。
セメントは金属を骨に直接につなぎ、固定するものです。一方、セメントを使用しないシステムは表面に特殊な加工がされていて、手術後骨が入り込んで固定されます。骨が入り込んで金属と固定されるまで少し日数が必要です。
人工股関節は、大切に用いれば長い耐久性があります。もしすり減ってしまった場合には再度取り替えることもできます。

 

手術による改善

股関節に障害があると、痛み、可動域制限(動きが悪くなる)があり、そのため、重い物をもてない、長く歩けない、階段を昇降しにくい、靴下・爪切りができない、などの日常生活上、大変不便です。薬などの治療(保存療法)で十分に改善が得られない場合、手術をします。
人工股関節置換術は、患者さんの関節の痛みを和らげることが期待できます。手術によって、股関節を人工の関節と取り替えます。

股関節置換術の効果

手術後、股関節の動きがよくなります。
股関節の痛みがなくなります。(大きく和らぎます。)

  • 脚の力が強くなります。股関節の痛みがなくなれば、もっと脚を使うことができますので筋肉が付いてくるのです。
  • 日常生活の動作や、運動がずっと楽にできるようになります。(人工関節の耐久性の点から激しい運動は控えて下さい)
  • 人工股関節は長くもちます。(長い耐久性)しかし適切な使い方と定期検診が必要です。一概には言えませんが、15年程度の耐用年数が期待できます。
  • 術前、股関節の動きが制限されている場合、手術によって椅子への腰かけや敷居をまたぐなどの基本動作が楽になることが期待できます。

入院の準備

手術の前から、「手術を 受けたあとの自宅での生活」についてお考えください。退院後に生活しやすいようご自宅の内外を少し準備された方が良いと思います。また、かかりつけの医師 や歯科医にもかかっておいたほうが良いでしょう。喫煙する方は、禁煙するか減らすように心がけて下さい。手術の危険性を減らし、回復の度合いがより良くな るでしょう。

自宅の準備

手術後の生活を、より楽で安全なものにしましょう。家の中の危険物は取り除いておきましょう。また、歩いたり階段を昇ったりする回数が少なくてすむようにしましょう。また、ふとんよりベッド、トイレも洋式が便利です。いすに座る生活中心が望ましいでしょう。
床の上の小さい敷物などは取り払うか、ピンなどでしっかり固定しましょう。また、つまずいたりしないよう、電気のコードなどもテープで固定したりしましょう。トイレの手すりなどもあると、楽です。

退院直後は松葉杖あるいは杖が必要です。必要に応じて廊下や階段の手すり、浴室の手すりや入浴用の座イスの準備があると快適です。入院時に病院スタッフがご自宅の状況やご家族の状況をお聞し、必要に応じてアドバイス致します。入院時に病院スタッフにご相談ください。

薬について

服用している薬は、薬局 で買ったものも含めて全て医師・看護婦にお見せ下さい。これは非常に重要なことです。薬によっては麻酔と一緒に服用してはいけないものがあるからです。そ の他にも、心臓の病気に対する内服をおこなっている場合は、出血を増やす恐れのある薬があります。手術中の危険を避けるためにも、手術が終わるまで服用を やめる必要がある場合があります。

歯科治療について

歯や歯ぐきに問題がある 場合には、手術の前に治療しておきましょう。口の中のさいきん細菌が血液中に入って、新しい人工股関節にかんせん感染する危険性があるからです。こうなる と回復を遅らせる場合がありますし、ひどい場合には人工関節を取り出さなければならなくなります。

麻酔について

あらかじめ麻酔科を受診していただきます。今までに薬や麻酔などで具合が悪くなったことがありましたらお知らせください。

自己血輸血と採血について

手術中の出血を補うため に輸血を行うことがあります。副作用の危険性を少なくするため、原則的に手術前に患者さん自身の血液(自己血)を採血しておき、冷蔵あるいは冷凍保存しま す。外来あるいは、入院後に採血します。手術時あるいは手術後に患者さんに戻します。鉄剤を服用して頂きます。出血による貧血が強く自己血だけでは不足の 場合や、自己血が採取できない場合には、赤十字から輸血用の血液(他家血)を手配します。この血液は、病原菌の検査をしたものです。

体重管理について

体重が重い場合、股関節 により多くの負担をかける事になります。手術後も股関節への負担が大きく、起き上がったり、歩いたりすることが困難になります。人工股関節を長もちさせる ためにも肥満にならないよう気をつけましょう。 標準体重を大きく越えている方は減量の必要がありますが、適切な栄養の摂取は大事なことですから必要な場合は栄養士に指導を受けましょう。

股関節置換術の手術

手術前の検査をいくつか行います。主治医・看護婦の指示に従って下さい。また、手術前に麻酔の説明があります。手術前に手術の内容について説明をいたします。本人、ご家族の方を含めてお話ししますので、主治医と日時の打ち合わせをします。

入院時

入院後、手術までにベッド上の生活、車イス、松葉杖、下肢運動の練習をしましょう。(下のチェックリスト例に沿って進めます)

術前チェックリスト

練習した日 うまくできた項目に○をつけましょう。
車いす移乗、移動
車いす専用トイレ
松葉杖歩行
ベッド上での排尿 尿器(   ) 便器(   ) 腰上げ(   )
外転枕、体位変換
下股の運動

手術前日

手術前日の飲食を止める時刻は医師・看護婦に確認してください。
毎日のんでいる薬があったら、手術の朝ものむかどうか確認して下さい。
病院では、手術前に次のような準備を行います。

  • 必要に応じて手術部位の除毛、消毒。
  • 抗生物質のアレルギーテスト。
  • 浣腸、その他

手術に伴う諸問題について

他の手術と同様、人工股関節置換術にも下記の諸問題が起こる場合があります。

  • 麻酔に伴うこと
  • 肺動脈塞栓症
  • 感染
  • 輸血による問題
  • そのほか手術中の予測不可能な出来事に対して、医療処置が必要になることがあります。

人工股関節置換術の合併症

  • 脱臼:人工関節が外れてしまうこと。痛みで足を動かせません。
  • 深部静脈血栓(血管の中で血液が凝固する)、肺塞栓症:血液の流れが悪くなり、下肢がはれたりします。重症では呼吸が苦しくなります。
  • 細菌感染(化膿):人工関節は大きな異物であるため、細菌感染が起こりやすい環境です。感染すると赤みや腫れ、膿が出て治りにくく、人工関節を抜去しなければならない場合があります。虫歯、足の水虫などに注意し、いつも清潔にするように気をつけて下さい。
  • 人工材料に対する反応(アレルギー反応):ごくまれに金属などにアレルギー反応を示す方がいます。
  • 人工股関節のゆるみ、破損、摩耗
  • 周辺の血管・骨・神経への損傷など。詳しくは医師から説明があります。

手術

手術の準備が整うと、患者さんを手術室へお連れします。そこで麻酔をかけます。全身麻酔あるいは腰椎麻酔をおこないます。股関節を展開して、傷んだ骨を全てきれいに取り除き、人工関節を固定します。

  • 骨の切除
    太腿の骨の骨頭を切り、骨盤側の受け口(寛骨臼)の表面を滑らかにします。人工関節のカップを骨盤にはめ込みます。ネジやセメントを使って固定します。


  • 新しい関節の設置
    人工関節を太腿の骨にはめ込みます。
    人工関節がしっかりはまったら、人工の骨頭とカップを組み合わせます。
    この場合もセメントを使うことがあります。セメントを使うかどうかは主治医が患者さんの骨を見て、最適な方法を選びます。

手術後

尿管(お小水を出す細い管)と股関節の創部(きずぐち)に不要な血液などを外に出す管が入っています。

病室で

手術直後から、患者さんの様子をずっと観察します。

  • 外転枕(がいてんまくら)と呼ばれる三角形の固めのスポンジを両足の間にはさみます。これは関節が脱臼しないように正しい位置に保っておくためのものです。指示があるまで外さないようにします。
  • 静 脈血栓(血管の中で血液が固まること)予防のために弾力包帯を下肢に巻きます。血栓を予防するために下肢を圧迫して血行を促す器械を装着することがありま す。また、腫れを抑えるため骨盤・大腿部にプレパンツを着用したり局所を冷やしたりする場合もあります。手術部の安静と腫れを防ぎます。
  • 手術後数日目からCPMと呼ばれる器械を使って股関節、膝関節を動かします。

痛みの除去

手術後数日間は注射や点滴、坐薬で鎮痛剤を投与される場合があります。鎮痛剤を使っても、多少の痛みを感じることもあります。しかし、薬で痛みが和らがない場合や何か変ったことがおこりましたら、必ず看護婦(士)にお申し出下さい。

手術後のリハビリテーション:後療法

リハビリテーションはベッド上での簡単な運動から始まります。

血行を良くして腫れを引かせる方法などをお教えします。太腿の前面の筋肉をきたえて、脚の力を強くしましょう。この運動によって股関節を安定に保ち、新しい関節を守ります。運動は痛みなしに体重を支える役にも立ちます。

手術後2~4週目(再置換の場合術後6~8週)には、立ち上がって歩きはじめます。医師および理学療法士がどのくらい新しい関節に体重をかけても良いか、などについてお教えします。手術の内容などにより個人差がありますので、自分のペースを守って進めて下さい。

※ 施設・個人によって、リハビリテーションの内容が異ることがあります。

  • 手術後翌日:第1日目
    1)運動練習:膝、足首の運動を始めます。深呼吸も忘れずにしてください。
    2)体位交換、上半身を起こすことはかまいません。看護婦(士)とともに行ってください。
    3)仰向けに寝て行う運動

    どんどん行って下さい。
  • 屈伸運動
    膝を曲げてかかとをお尻の方へ引き付けます。股関節を90°以上曲げない様に気を付けます。左右10回ずつ繰返します。
  • 四頭筋運動
    脚をまっすぐに伸ばし、太腿の筋肉にゆっくり力を入れて大きな声で10数えます。
    左右10回ずつ行ないます。
  • 足首屈伸
    足首を曲げ伸ばしします。左右交互に各10回ずつ行ないます。
  • 殿筋運動
    お尻の筋肉に力を入れ大声で10数えます。10回繰返します。
  • 外転運動
    脚の間に枕をはさみます。一方の脚を外側に広げます。この時、膝のお皿が上を向いているようにします。ゆっくり脚を元に戻します。各10回ずつ繰返します。

※これ以外の運動も、医師・理学療法士の指示に従って行いましょう。

  • 手術後数日から数週間:手術の内容、筋力などに応じて時期は異なります。
  • 1) CPM(ベッド上で器械CPMを使って股関節、膝関節を動かします)
    2) 端座(ベッド脇に腰掛けること)
    3)下肢挙上(支えなしで自分の力で足をあげられる)
    4)車椅子(最初のうちは介助を受けて乗り降りします)
    5)歩行訓練(理学療法部にて練習します)2本の平行棒の間で歩くこと、その後、2本松葉杖を使って歩く練習をします。

 

※ 医師、看護婦(士)に従って一歩一歩進めてください。自分で勝手にすすめてはいけません。

荷重歩行:足をついての歩行、退院へ
立 位、歩行訓練を進めるにあたり、荷重の程度を指示されます。「足を床につく程度(1/4荷重)、1/3、1/2、2/3、全荷重」などと指示されますので それに従って訓練を進めてください。手術の内容、骨癒合の状態などにより個人差がありますので自分のペースを守って進めてください。

※ 足をついて歩行開始する時期の大まかな目安は人工関節で手術後2-4週
(人工関節再置換で手術後6-12週)くらいです。

退院後の注意

退院後の診察で、医師は患者さんの股関節が順調に治ってきていることを確認しますので必ず受診して下さい。退院後おおむね1か月、3か月、6か月、以降6か月毎に外来受診します。

注意すること

下記のような症状が現れた場合には、お知らせ下さい。

  • 股関節の痛みが増してきた場合 
  • ふくらはぎや脚の痛みや腫れ 
  • きずぐちが異常に赤くなったり、熱を持ったり、膿や血などが出ている場合 
  • 呼吸困難や胸の痛みがある場合 
  • 38度以上発熱している場合

危険な動きは避けましょう

動きによっては、人工関節に大きな負担をかけることがあります。このような動きは脱臼や人工関節をすり減らしてしまう原因となり得ますので、気を付けましょう。無理をしないことが人工関節を長くもたせる上で大切です。以下のことがらに十分注意してください。

  • 足を組まない、ねじらない
  • 手術側を下にしない:3週間程度
  • 低い椅子、ソファーに深く腰掛けない。
  • 過度の股関節屈曲をしない:屈曲90度までがめやす
  • 過度の股関節伸展(そらせる動作)をしない。
  • 股関節の過度の内転をしない。
  • 走る、ジャンプなどしない
  • 重い物(20kg以上)は持たない

日常生活に役立つ道具

日常生活上で手術した股関節に負担がかからない用具、
リーチャー、くつ下エイド(下図)、シャワーチェアなどを使うと便利です。

メモ

重要なことは忘れないようにメモしておきましょう。

  • 指示された運動は自宅でも行いましょう。再び正常に歩くために必要なことです。
  • 仕事に復帰するのは(  月  日)以降にして下さい。

どうぞ、お大事に。

このコーナーの情報は専門医の監修を頂いておりますが、患者様の状態は個人によって異なりますので、
詳しくは医療機関で診断を受け、主治医よりご説明を受けて下さい。

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