頸椎の手術

頸椎のはたらき 頸椎の病気 頸椎の手術 手術の準備 手術後の生活 退院後の生活 質問コーナー

頸椎のはたらき

頸椎はいわゆる「くび」の部分で、頭を支えて動かすはたらきを しています。また、生命維持に関わる大切な神経「脊髄」を保護しています。

頸椎あるいはその周辺組織に問題が生じると、日常生活に支障を きたしたり、しばしば重大な神経障害(麻痺や耐えがたい痛みなど)をきたすことがあります。

頸椎のしくみ

頸椎は7つの骨(椎骨)が連なり、椎骨同士が関節のように動いて、くびの動きを可能にしています。腰よりも動きの範囲が大きく、頭を上下左右さまざまな方向へ動かすことができます。椎骨と椎骨の間には椎間板があり、クッションの役割を果たしています。
cervical01
cervical02

脊髄と神経根

脊髄は脳から下方へ伸び、椎骨を出て全身へと広がっていきます。椎 骨から左右に分岐したばかりの神経を「神経根」といいます。脊髄の圧迫による症状は、多くの場合、体の左右両側に出ます。それ に対し、神経根の圧迫による症状は、左右どちらか一方に現れる場合がほとんどです。
cervical03

頸椎の病気

頸椎症

頸椎の椎間板や椎骨が加齢に伴って 変性/変形することで、脊柱管(せきちゅうかん)や椎間孔(ついかんこう)が狭くなる状態です。その結果、脊髄が圧迫されて脊髄症 状が出るものを頸椎症性脊髄症(けいついしょうせいせきずいしょう)、神経根が圧迫されて神経根症状が出るものを頸椎症性神経根症 (けいついしょうせいしんけいこんしょう)と言います。進行は比較的ゆるやかですが、転倒やけがなどが引き金となって 脊髄麻痺になり、くびから下の自由がきかなくなる場合もあります。
cervical04

●原因

椎間板は年齢とともに変性し、水分が失われて弾力がなくなったり亀裂 が生じたりします。さらに、変性が進むと、椎体の縁の骨がとげ状に大きくなり骨棘(こっきょく)、靭帯(じんたい)も厚く硬くなっていきます。
cervical05

●症状

頸椎症性脊髄症

脊髄が圧迫されて脊髄症状が出ます。
手先の細かい作業、例えばボタンかけや箸を持つ作業が思うようにできなくなる場合があります。
また、歩行がぎこちなくなったり、足が前に出しにくい、早く歩けないなどの下肢の症状が出る場合もあります。 これらの症状は多くの場合、両側に出ます。さらに、排泄の機能が障害されることもあります。

頸椎症性神経根症

神経根が圧迫されて神経根症状が出ます。
くびの痛みや肩こり、手足にしびれ、脱力などが現れる場合があります。
症状は多くの場合、片側に出ます。

後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこつかしょう)

椎体の後面に付着している後縦靭帯が骨化する(骨に変性する)疾 患です。骨化して肥大した靭帯が脊髄や神経根を圧迫すると、手や足、体幹の痛み、しびれや運動障害などをきたします。中年期以降 に症状があらわれることが多く、また、その他の脊椎の靭帯(黄色靭帯や前縦靭帯)や、脊椎以外(膝や股関節など)の靭帯の骨化を 合併していることもあります。

関節リウマチ

骨や関節に炎症を起こし、腫れて痛む疾患です。
脊椎では椎間関節の変形をきたし、特に第1頸椎と第2頸椎(C1、C2)での病変が多く見られます。頸椎の病変では頸の安定性が悪く なり、ひどい場合は脊髄麻痺をきたすこともあります。

椎間板ヘルニア

椎間板の中心は髄核(ずいかく)とよばれるゼリー状の組織で、その周辺はバウ ムクーヘンのように線維が層をなして取り囲んでいます(線維輪(せんいりん)といいます)。この線維輪や髄核が脊椎の後方にはみ出して、神経を圧 迫するのが椎間板ヘルニアです。椎体の真後ろには後縦靭帯があるので、多くは左右どちらか斜め後ろ方向へ突出します。

注)ここに記載されている症状がすべての人に当てはまるものではありません。

頸椎の手術

脊髄症状が出ると、手術の適応となります。また、進行の防止や 脊髄麻痺の予防のために手術を勧められる場合もあります。神経根症状では、強い運動麻痺があったり、保存的治療で効果が 得られない場合に手術を行うことがあります。

手術の目的

●除圧

圧迫された神経(脊髄、神経根)への圧力を取り除いて症状を緩和す ることです(除圧術)。

●固定

除圧だけでは症状が再発する可能性がある場合や、骨を取り除いたこ とで脊椎がグラグラと不安定になってしまう場合は、除圧した後に、患者さん自身の骨盤などから骨をとって移植することにより、不安定な椎 骨と椎骨を一塊(ひとかたまり)にする固定術を行います。固定の際、移植した骨が一塊になるまで数ヶ月かかります。 そのため、手術後の早期離床や早期の社会復帰を目的として、スペーサーと呼ばれる人工物や、スクリュー(ネジ)やプレート等の金属を使 用して固定の補強を行います。これをインストゥルメンテーションと言います。

手術の効果

手術を受けることで、痛みやしびれが軽減されます。しかし、しびれ は残ることが多く、痛みもある程度続くことがあります。
神経の圧迫による痛みやしびれ等の症状を改善するために行われてい る手術は、神経の圧迫を取り除く手術(除圧術)と脊椎を固定する手術(固定術)であり、神経そのものを直接回復させる手術ではありません。 ですから、神経の回復の度合いによって症状の改善に違いが出てきます。 神経のダメージが少なければ比較的早期に症状の改善がみられますが、ダメージが大きければ症状の改善に時間がかかったり、また、症状が残 る場合もあります。この他、患者さんの痛みやしびれに対する感受性による個人差も考えられます。
手術前に主治医から病状と手術の効果や合併症についての説明をよく聞き、わからないことや不安なことは納得のいくまで相談して手術にの ぞむようにしましょう。

手術方法

●前方除圧固定術(ぜんぽうじょあつこていじゅつ)

くびの前側の皮膚を切開し、椎体を削って神経の圧迫を取り除き、骨 盤から採取した骨や人工骨、金属製の内固定材(ケージ)などを補充して固定する手術です。 固定性や骨の癒合を促す目的で、さらに金属製のプレートで固定する場合もあります。
cervical08

●後方除圧固定術

くびの後ろの皮膚を切開して行う除圧固定術で す。神経の通る脊柱管を構成している椎弓の一部を切り取って神経の圧迫を取り除き、患者さん自身の骨を移 植したり、スクリューなどで固定して頸椎の安定性を高める手術です。
cervical09cervical10

●椎弓形成術(ついきゅうけいせいじゅつ)
(脊柱管拡大術(せきちゅうかんかくだいじゅつ)

椎弓に切り込みを入れて開き、間に人工骨や患者さん自身の骨を挿入 して脊柱管を広げ、脊髄の圧迫を取り除きます。椎弓を開く方法として、椎弓の正中で開く方法 縦割(じゅうかつ)式と、椎弓の 片側に切り込みを入れてドアのように開く方法(片開き式)があります。
cervical11

手術に伴う諸問題について

他の手術と同様、頸椎の手術においても、下記の諸問題が起こる場合 があります。

●手術一般に伴う諸問題

  • 麻酔に伴うこと
  • 周辺の神経・血管・組織の損傷
  • 深部静脈血栓(しんぶじょうみゃくけっせん) 【血管の中で血液が凝固する】、肺塞栓症(はいそくせんしょう) :血液の流れが悪くなり、下肢が腫れたりします。重症になると呼吸が苦しくなります。
  • 細菌感染【化膿(かのう】
  • その他、手術中の予測不可能な出来事に対して、医療処置が必要に なることがあります。

●椎弓形成術の合併症

  • 脊髄や神経根の損傷
  • 髄液瘻(ずいえきろう):脊髄を覆っている膜が傷つき、脳と脊髄の周囲を循環して いる脳脊髄液(のうせきずいえき)が外に漏れ出すこと
  • 移植骨がずれる:人工骨や患者さん自身の骨がずれてしまうこと
  • 術後の頸部の痛みや肩が上げられなくなること

●除圧固定術に共通した合併症

  • 脊髄や神経根の損傷
  • 髄液瘻(ずいえきろう):脊髄を覆っている膜が傷つき、脳と脊髄の周囲を循環して いる脳脊髄液(のうせきずいえき)が外に漏れ出すこと
  • 骨癒合不全(こつゆごうふぜん)・偽関節(ぎかんせつ):手術した骨が正常に癒合していない状態
  • 血腫(けっしゅ):手術後に血の固まりができて、新たに脊髄の圧迫症状が出る ことがあります。手術で取り除く場合もあります。
  • 血管損傷(椎骨動脈損傷)
  • スクリューやプレート等の折損
  • 移植する骨を採取した部分(骨盤)の血腫、感染、痛みなど
  • 人工材料に対するアレルギー反応

●前方除圧固定術の合併症

  • 嚥下(えんげ) 障害(食べ物の飲み込みの障害)・嗄声(させい)【声がかすれること】: 手術中に、食道や気道を圧迫するために、一過性に起こることがあります。
  • 周辺臓器(食道・気管など)の損傷など、医師より詳しく説明があります。

手術の準備

●検査

安全に手術を受けるために、血液検査や心電 図、エックス線などで、全身の状態を調べます。

●呼吸の訓練

手術後の回復を早め、合併症の肺炎を予防す るために、深呼吸や痰を出す練習をします。医師や看護師、理学療法士が指導します。

●薬について

現在飲んでいる薬は、薬局で買ったものも、 全て医師、看護師にお見せください。薬によっては手術に影響するものがあるからです。

●歯科治療について

虫歯や歯周病などは、手術の前に治療してお きましょう。

●剃毛・除毛

手術部位周辺にかかる可能性のある後頭部の毛髪を短く刈り上げる場 合があります。看護師が詳しく説明します。

手術後の生活

●くびの安静を保つために

頭の両脇を枕などで固定します。体の向きを変えたい時は、必ずナー スコールでお知らせください。

●尿の管が入っています

尿は自然に排泄されます。患者さんの状態を見て管を抜きます。引っ 張らないでください。

●点滴の管が入っています

薬などを注入するための大切な管です。患者さんの状態を見て外します。

●酸素を吸入します

鼻と口をおおうようにマスクをします。いつも通り楽に呼吸をしてく ださい。

●水分や食事は?

水分や食事については、医師、看護師の指示 に従ってください。

●安静

翌日から頸椎カラー(固定装具)をつけて起き上がることができます。 リハビリテーションは症状により差がありますので、医師、看護師の指示に従ってください。

●してはいけない動作、気をつけなければならない動作

くびを前後左右への過度の曲げ伸ばしや、ねじらないようにしましょ う。またくびを回さないようにしましょう。くびを動かす時はゆっくり行うように心がけます。このことは完全に骨がつくまで(約2~3ヶ月間)守りましょう。どの 程度動かしてよいかは、主治医に確認してください。インストゥルメンテーションを行った場合は、電気治療はしてはいけません。金属が加熱してやけどを起こす場合があります。
cervical16

退院後の生活

日常生活について

●睡眠

寝る時は装具を外しても構いません。ただし、無意識のうちにくびが 横を向かないように、頭の左右を雑誌や枕などで固定すると良いでしょう。枕の高さは、低めのものを選びましょう。入院中と同じくらいのも ので良いでしょう。

●入浴

くびを前後に曲げすぎないように気をつけましょう。
洗髪の時は、不安であれば、防水性のカラーを着用したり、家族に手 伝ってもらうのも良いでしょう。

●自動車等の運転

くびの動きが制限されている間は視野が狭くなるため、自動車や自転車 の運転はとても危険です。
また、鎮痛剤などは眠くなる成分を含んでいることがあるので注意が 必要です。必ず主治医に相談してから行ってください。

●喫煙・飲酒

飲酒については、泥酔しない程度なら構いません。喫煙は骨のつきが 悪くなる原因といわれています。できるだけ禁煙をしましょう。

●仕事・家事

病気の程度にもよりますが、事務仕事程度の軽作業であれば、退院後 から復帰が可能です。しかし、指示された期間内は装具を着用していてください。また、復帰直後から無理をしないようにしましょう。就労に ついては、必ず主治医と相談してください。
家事についても、暫くは不自由があると思います。動作はゆっくり行うように心がけ、無理をしないようにしましょう。

肩のストレッチ

くびの手術後は、動きが制限されたり、動かしてはいけないと意識す るために、肩こりになる場合があります。くびを動かさずにできる肩の運動を行いましょう。
cervical17
cervical18

頸椎固定具について

頸椎カラーの装着期間は、手術後2週間程度です。退院後の装具使用の 有無や使用する期間は、術式や患者さんの骨の状態などによって違いがあります。また、椎弓形成術では、頸椎カラーを装着しない場合もあり ますので、必ず主治医に確認してください。
取り外しが困難な場合は、家族の方に協力してもらいましょう。汚染した場合は、水拭きか手洗いをした後、ドライヤーなどで乾かしてくだ さい。また、装具が破損してしまった時は、すぐに病院に連絡してください。
cervical19

こんな時はすぐに受診するか、病院に連絡してください

  • 術前と同じ痛みが再発して、安静にしていても持続する場合
  • 38℃以上の発熱が続く場合
  • 手術した傷口がじくじくしたり、濡れてくるような場合

質問コーナー

骨を取ったところが痛みますが治るのでしょうか?

骨盤などから骨を採取した部位が痛む場合もあります。このような違和感や採骨部の痛みについては時間の経過とともに気にならなくなることがほとんどです。 心配な場合は主治医に相談しましょう。

空港の金属探知機は大丈夫ですか?

通常、金属探知機には反応しないことがほとんどです。しかし、感度の高い探知機では反応する可能性もあります。海外へ行く際に心配な場合は、医師の診断書 や証明書を持参すると良いでしょう。

他の病気で受診する時にも手術の事を説明した方が良いですか?

初めて受診する医療機関や診療科では、既往歴として必ず伝えてください。また、金属で固定している方が、MRI(磁気共鳴装置)など強力な磁場が発生する 検査を勧められた場合は必ず主治医に相談してください。

自転車に乗ってもよいでしょうか?

くびの動きが制限されるため、視野が狭くなり危険です。いつ頃から乗ってよいかは主治医に相談してください。

このコーナーの情報は専門医の監修を頂いておりますが、患者様の状態は個人によって異なりますので、
詳しくは医療機関で診断を受け、主治医よりご説明を受けて下さい。

禁無断転載。文章・画像の一部あるいは全部を引用される場合は弊社までご連絡ください。